さようならPM-4000PX

PM-4000PX

長年使っていたプリンターEPSONのPM-4000PXが壊れたという感傷的なだけのお話です。

Penguin Icon PM-4000PXがついに壊れました

業務用途に地味に使い続けていたEPSON PM-4000PXがついに完全に壊れたようで、印刷不能に陥りました。何をやってもヘッドが無反応、インクかすれみたいなのができるだけでまったく印刷されなくなったんです。しかも変な電気ノイズみたいな音がします。どう考えても修復不可能っぽい症状です。

締め切りとの戦いの中で使用する必要がある差し迫った状況でのご臨終に蒼ざめます。絶望が押し寄せますが、絶望のなかに心穏やかな感謝と追悼の気持ちもわいてきます。

これまでありがとう。君ほどの名機はかつてなかったし今後もないであろう。安らかに眠りたまえ。

壊れて困っていることは置いとくとして、このPM-4000PXというのは名機中の名機でして、2002年頃に買って以来、実に15年間使い続けたことになります。15年も使い続けるデジタル機器が他にあろうか。

 

Penguin icon プリンターと歩んだ歴史

初めてコンピュータを買って以来、プリンターというものも買い続けました。コンピュータ本体よりプリンターを買い換えた頻度のほうがうんと高いです。なぜプリンターを買い換え続けたのか。

最初は文字だけ印刷できる事務プリンター、Macを業務に使うようになっていきなりCanonのバブルジェットとかいうカラープリンターを買って、当時はプリンターが40万円、プリンタドライバーが別売りで7万円とか、そんなレベルでしたよね。

コンピュータの進化も凄まじいものでしたがプリンターも凄いもんで、毎年どころか半年ごとに技術がアップして、目に見えて変化していった時代でした。技術者たちもさぞかし目まぐるしい毎日を過ごしていたことかと思います。

最初はインクのプリンタはつぶつぶが目立つなんちゃって印刷しかできなかったのですが、過渡期にはいろんな技術の製品で溢れており、事務用ならこれ、ちょっとしたカラーならこれ、画質を求めるならこれ、みたいに使い分けるほど多機種が健闘していました。

仕事上プリントは大事な要素だったので、実際には出力屋さんとの付き合いがほとんどを占めていました。仕事のプロジェクトごとに大量の印刷を発注します。年間に占める出力経費はとても大きいものでした。しかし90年代、プリンターが高機能低価格化する中で徐々に内製にシフトしていきます。

技術の革新が進む中、ポストスクリプト機、高画質用の昇華型プリンタ、手軽なインクジェットと、コンピュータよりも高い頻度で次々に買い増し、買い換えをしていきました。

インクジェットプリンタがある時吹っ切れて突如として写真画質並みの性能を披露したときには驚きました。それまではインク方式はつぶつぶが当たり前でしたから。「もう昇華型はいらなくなるかも」なんて思いましたね。

90年代後半、Windows95が発売され、さらに後iMacが発売されるころには写真画質のプリンタが非常に安価で販売されるようになりました。はじめてパソコン買う一般人が「コンピュータとプリンターはセットで買うもの」と思い込んでいた時期でもありました。

「写真画質」とはいいつつ、それでもまだ昇華型には到底及ばない状態がじわじわと続き、こちらもアホみたいに新製品に次々乗り換えていきます。やがて「もうこれくらいの画質で出力できれば十分だな」と思いはじめたそのタイミングで、A3のロール紙にもプリントできる顔料インクのプリンターが発売されたんですね。

画質も大事ですがもっと大事なことがあってそれは大判印刷です。出力屋さんとの付き合いの中で大きなウェイトを占めていたのは絵の下描きに用いる原寸の出力だったんです。

A1やA0の大判プリンタを自社で買うなんてのはまったく考えもしませんが、そこまで大きくなくてもA3ノビのロール紙でカバーできる範囲というのがあるのじゃないかと検討して、そんな中で新発売されたエプソンのPM-4000PXを速攻買いしまして、これがあまりにも出来が良くてですね、買った当時とても驚きました。

高画質でプリントした時の綺麗さは「ナンチャッテ写真画質」を凌駕しており納品にも使えるレベル、顔料インクのおかげで水分に強く仕事の下絵に使えるレベル、ロール紙のおかげでちょっとした手間だけで実寸原稿に対応できるレベル、出力屋とのやりとりの時間をすべてそぎ落とせる時間短縮は利益に直結するレベル、理想を超えた理想を実現するこのプリンタが僅か10万円ほどで買い切れると、「プリンターの歴史は終わったな」とそのとき思いました。

その直感の予想は完全に的中し、それ以降15年間にわたり現役で使い続けられることになった4000PXです。当然、4000PX以降、より高性能のプリンターが発売されましたが、基本的に「ただの性能向上」でしかなく、場合によっては退化していたり、つまり何ら革新性もないし新機軸でもないという、別の言い方で言うと安定したんでしょうかね、そんな感じでした。特に必要に迫られることもないまま、プリンターを買い換え続ける歴史は終わったんです。

Penguin icon PM-4000PXは終わっていたが現役でもある

部品の保持期間というものがあって、修理対応をやめてもいいっていう時期があります。4000PXは2012年ごろにEpsonから「今後修理できません。お仕舞いになります」と正式に連絡もありました。もう終わったんです。

ですが動いている以上使いますね。使いまくりました。さらに、インクがまだ売っています。明らかにインクをまだ作っています。部品はなくなり修理には対応しないけど使っている人のためにインクは供給されているという、そんな状況です。つまり現役で使っているところはまだまだたくさんあるんですね。

私のところではついに壊れたので現役仲間から脱落です。この世のどこかにいる現役ユーザーにバトンタッチです。

Penguin icon プリンターというもの

一時は隆盛を極めたプリンターは今ではすっかり日陰者、普通の人が当たり前に持っていたような状況とは違ってきているように思います。

貧困国

一昔前は「コンピュータ買ったらプリンターとセットで」みたいな風潮がありました。今ではそもそも若い一般庶民がコンピュータを買えないほどの貧困国家と成り果ててしまい、コンピュータやプリンターが酸っぱいどころか、すでに目に映らず脳で認識できないような状況のようです。

インク商法

プリンターの性能はがんがんに上がっていますが、もうまったく製品の勢いが感じられません。自然にそうなったというより、これは私の感じ方の話ですが、ひとつには貧困国になったから、そしてもうひとつ、やっぱインク商法が裏目に出たんだと思います。プリンターを安値でばらまき馬鹿高いインクで利益を確保するという誤った商法ですね。

これのせいですごく印象が悪く、私だって仕事で使わないんならプリンターなど買おうとすら思わなくなったに違いありません。

写真とプリント

さらにもうひとつあります。昔は写真というものはプリントしてなんぼというものでした。必ず現像してプリントしてましたよね。その延長線上にプリンターを据えると、当初はよくてもだんだん萎みます。

写真はプリントするもの。という常識がなくなってくるからです。写真はコンピュータまたは人によってはクラウドを用いて別の箇所にまとめて保存しておくものになったという、そんなことも原因のひとつと思っています。

AppleはApertureを棄てるという大失態をやらかし、現状Lightroomしか選択肢がない写真の管理ソフトの惨状を見ても、この分野に早々に参入して新たな地平を築くことがどの企業もまるでできなかったという残念感に包まれます。

Penguin icon 資本主義の末期症状

と、勢いで何やら胡散臭い小見出しですが、インク商法の話の流れでその続き行きます。

インク商法や、それ以外で顕著なソフトウェアの毎月課金のレンタル方式、毎月払いのネットワークゲームなんかもそうなんでしょうか、あと通信費という名の搾り取りシステムを備えたモバイルのキャリアなんてのもありますね、魅力的な商品そのものの力で購買層を広げるという商売の基本を放棄して、如何に容易く既存客から毟り取るかということばかり企業が考えるようになってきまして、そんでもって実際そのやり口のほうが利益が上がってきているという嘆かわしい状態はこれはもう末期的と思わざるを得ません。

プリンターのインク商法なんてのは「月額使用料」みたいなのに比べると遙かに良心的ですが、良心的な分市場が縮んでしまったという印象です。

もともと業務用機器はリース契約というのがあって、これで利益を得ていたわけですが家庭用というか売り切りのプリンターに関してはよい方法が浮かぶ前に猛スピードで階段を駆け上ってそしてコテンと転げた感じを受けます。

そう言えばデジカメというのもそうですね。

デジカメ

デジカメの急発展と現在の閉塞感のギャップというのがプリンター市場と似ているように思えるんです。

デジカメには毎月課金もインク商法もありませんでした。通信に関する縛りがなければ、「カメラ付き携帯」じゃなく「通信機能付きカメラ」で上手い具合にいけたかもしれませんが最早手遅れ、そういう色気も出さず気の毒なほど実直な販売方法を取る商品です。そして資本主義末期の世界では実直な商品が大きな利益を上げることを資本主義のお化けが許しません。

Digital Boo Pennguin Icon

と、プリンターが壊れただけなのにだらだら書いていますが何してるんでしょう、わし。めちゃ忙しくて急いでいるのに。一刻も早く新しいプリンターが必要なのに。こんなの書いてる暇ないはずなのに。Moviebooの更新もまったくできてないのに。

ということで大急ぎでプリンターを物色中ですが、やっぱり市場が萎んでるだけあってラインナップも萎んでますね、条件はなんせA3+サイズのロール紙プリントですよ。ロール紙ロール紙。くそ、検索条件にロール紙対応っていう項目ないじゃないの。さがしにくーい。

現役だったらこのふたつのどちらかですか?どうちゃうのん?

 

 

“さようならPM-4000PX” への6件の返信

  1. おぉ、これ、うちにもありますよ
    かなり長いこと使ってませんが…
    海外でも大人気だったみたいですねぇ。
    私も同様、発売直後に買いました。プリンタが欲しくてアキバに行ったら、たまたま何故か半額の展示処分があって衝動買い。
    CDラベルもプリントできちゃうし、間違いなく傑作機でしょう。

    1. お持ちですか。お仲間お仲間(^ ^)
      ドライバの更新も最近までされていたし、まだ現役で使っている人もたくさんいると思います。私は現場に持ち込んでの作業なんて無茶もしていました。よくここまで持ちこたえたものだと思います。

  2. 記事拝見して感慨深い物がありました。我が家にもPM-4000PXがあり、昨年(2017年)10月に廃インクパッドの限界に達し停止しました。
    まあウチでも13年間全く故障なく稼働し、これ以後に買った3台が何れもとっくに廃棄されている現状があり、やはり4000PXの耐久性にはびっくりでしたが、さすがに時々かすれが生じるなどそろそろ引退かなあと思っていました。一応リセットして再生はしましたが、思い切って暮れにSC-PX5VⅡを購入しました。

    それで色々試したんですが、驚いたことに画像の輪郭のシャープさが4000PX の方が遥かに上なのです。これは4000PXが全弾4plという均一のドットでプリントするのに対し、SC-PX5VⅡはMSDTといって、画像の濃度によってインク粒を大小使い分けるシステムなのでこの弊害が出たようです。

    私の用途はプリントサイズは小さいのですが細部を非常にシビアにプリントする必要があるのでこれにはがっかりでした。
    ただ、AdobeRGBに対応したことにより色空間が広がり、正確な色再現が出来るようになったことはありがたいですし、色かぶりも少なくなったようです。

    こういう事情なので、4000PXを引退させることは出来ず、用途によって併用となりました。メーカーには次の機種ではMSDTを切る選択肢を取り入れて欲しいですね。

    あとSC-PX7VⅡは、変則インク構成の機種なので色再現が全く違い、4000PXの後継機種ではありませんね。アマチュアのデジカメ作品用途だと思いました。

    1. この記事の直後SC-PX5VIIを買いましたが4000PXに比べて使い勝手が大幅に落ちましたね。私の場合は高詳細プリントより簡易で手早いプリントの使用頻度が多いので少し困ったことになりました。高画質プリントはさすがと唸りますが。

      4000PXがまだ現役で併用されているとのこと、羨ましい限りです。

  3. 新品二台 、中古 二台 計4台 とうとう全て不能になりました。
    ネットを調べて インクタンク バイパス修理、リセット、ヘッドクリーニング、駄目元で所々分解。一台でも助かれば とやってみましたが残念でした。
    まあ 2004年から頑張ってくれました。
    これ程人気の機種の後継機が何故出ないのか?

  4. コメントありがとうございます。事情で長くアクセスできず、遅くにすいません。PM-4000PXはほんとに長く使われてる方が多く、名機と確信できますね。良い機種はメーカー的には儲からず買い換えてもらいたいのかもしれませんが、よい機械を作ってこそ良いメーカー。精進を期待したいです。

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